
伊東 絢人 | Kento Ito
2018年、セイコーウオッチ入社。現在は主にアストロン、プレザージュのデザインを担当している。
川村 公則 | Masanori Kawamura
2013年、セイコーウオッチ入社。入社後は欧州・米国向けを中心としたモデルを担当。2020年以降はアストロンを担当し、現在はプロスペックスのデザインを担当している。

伊東 絢人 | Kento Ito
2018年、セイコーウオッチ入社。現在は主にアストロン、プレザージュのデザインを担当している。
川村 公則 | Masanori Kawamura
2013年、セイコーウオッチ入社。入社後は欧州・米国向けを中心としたモデルを担当。2020年以降はアストロンを担当し、現在はプロスペックスのデザインを担当している。
山下 流 | Ryu Yamashita
2025年、セイコーウオッチ入社。入社後から現在までアストロンを担当。若手デザイナーとして日々研鑽を積んでいる。直近の目標は、自分がデザインしたウオッチを両親にプレゼントすること。
受賞に次ぐ受賞。その決め手は「ストレスフリーな装着体験」
山下:このたびはSBXC151の4冠、本当におめでとうございます!これから本格的にアストロンのデザインに取り組む身として、今日はさまざまなお話を伺えたらと思います。
伊東・川村:ありがとうございます。よろしくお願いします!


山下:そもそも、アストロンとはどんなブランドなのでしょう。
伊東:アストロンはGPSソーラー、あるいは電波ソーラーのムーブメントを搭載したブランドです。ブランド名は1969年の世界初のクオーツ腕時計「クオーツ アストロン」に由来しています。
川村:当時もそうでしたが、アストロンは常に新しい価値を社会へ提案してきました。2012年には世界初のGPSソーラー腕時計として生まれ変わり、世界中どこにいても現地の正しい時刻を瞬時に表示することを実現しました。
山下:誰もが高精度で正しい時を手にできるという、まさに社会的な価値を提供してきたんですね。そんなブランドから生まれた今回の腕時計ですが、1つのモデルがここまで多くのデザイン賞を受賞するのは珍しいことだと思います。お二人はその理由をどう捉えていますか。
川村:各アワードの審査内容を見ていくと、私たちが目指した「ストレスフリー」という考え方が評価につながったように感じています。
山下:ストレスフリー、ですか?
伊東:はい。分解すると「快適に着けられること」「多機能でも迷わず使えること」そして「長く愛用したくなる美しさを備えていること」になるでしょうか。そのすべてを高いレベルで両立したいと考えていました。
山下:なるほど。それぞれのポイントについて、ぜひ詳しく聞かせてください。


大ぶりな印象を裏切る「軽量感」と「腕なじみ」
山下:まず「快適に着けられること」について聞かせてください。
川村:GPSソーラーはその構造上、どうしてもケースサイズが大きくなります。そのなかで重要だったのが軽量化でした。
伊東:近年のアストロンではチタン素材を積極的に採用しています。ステンレスに比べて大幅に軽量化できるので、大きなケースサイズでも驚くほど軽く感じられます。
山下:実際に手に持つと、見た目とのギャップがすごいですね。


川村:さらにブレスレットの長さを簡単に微調整できるスマートアジャスター機能の採用や、腕なじみを向上させるケース設計も行っています。
伊東:『Good Design Award』では、軽量化や装着性への取り組みが評価されました。大ぶりな時計の魅力と快適な着け心地。その両立への挑戦こそ、まさに私たちがこだわった部分です。
山下:審査員が評価したポイントと、皆さんが目指したことが一致しているんですね。
川村:さらに『German Design Award』では、「魅力的なパートナー」という言葉をいただきました。旅先だけではなく、毎日の生活のなかでも自然に使い続けられる存在であること。その考え方も高く評価されたのだと思います。
多機能、だからこそ迷わせない。
山下:2つ目の「多機能でも迷わず使えること」というのは、どのように実現したのでしょう。
川村:実はそこもかなり時間をかけて設計しました。
伊東:このモデルにはクロノグラフ機能、デュアルタイム機能、日付表示、曜日表示など多くの情報があります。
山下:情報量が多いほど、本来ならダイヤルがごちゃごちゃして見づらくなるはずですよね。
伊東:だからこそ、どの情報を優先して見せるのかを徹底的に整理しました。
川村:立体感のあるインデックスや、日付や曜日を正面から読み取りやすい向きに配置したカレンダーなどはすべてそのためです。針のシルエットやインデックスのボリューム感、フォントデザイン、ダイヤル上に配置した各パーツのレイアウトなど、各部にわたり0.01ミリ単位で調整を繰り返しながら、情報の優先順位が自然に伝わるレイアウトを追求しました。


山下:情報量を減らしたわけではなく、整理したということですね。
伊東:そうですね。『iF Design Award』ではForm(造形)とFunction(機能)の両面が評価されました。私たちも機能とデザインは別々ではなく、一体のものだと考えています。
山下:美しさのためのデザインではなく、使いやすさまで含めたデザインということですね。
ソリッドな美しさ。「金属感」と「縦のデザイン」
山下:最後に「長く愛用したくなる美しさを備えていること」について。この話に関係するかもしれませんが、ひとつ気になったことを聞いてもいいですか?アストロンはソーラー機能を備えた腕時計なので、光をソーラーセルに届けるため、ダイヤルには光を透過させる工夫が必要なはずです。
川村:はい、その通りです。
山下:それなのに、どう見ても金属のダイヤルに見えます。特にサブダイヤルの放射の光沢がとてもきれいですよね。これ、どうやって再現しているのでしょう?
川村:ここは特に工夫したポイントのひとつです。今回のテーマはソリッドな金属感でした。しかしソーラー機能を生かすため、一般的な金属ダイヤルをそのまま使うことはできない。そこで反射板とポリカーボネート製のパーツを組み合わせることで、光を透過しながらも金属のような光沢をもった質感を再現しました。
伊東:反射板に関しては設計者と協力して、サブダイヤル部が金属的な光沢を放つように特殊な形状のものを開発しました。
山下:このモデルのためのパーツなんですね。


川村:そして今回は黒いダイヤルに白いサブダイヤルを配した、いわゆる逆パンダデザイン※を採用しました。そのコントラストも、光沢をより強調するための仕掛けのひとつです。
※社内の一部のメンバーでは、白ダイヤルに黒いサブダイヤルの組合せを「パンダ」、その反対のものを「逆パンダ」と呼んでいる。
山下:ソーラー機能を担保するための素材の制約を、さまざまなアイデアによってデザインの魅力へと変えているんですね。
伊東:毎日安心して使えることと、長く愛着を持って身に着けたくなること。その両方を形にしたかったんです。『German Design Award』でも、日常使いに適した実用性と、象徴的な美しさの調和が評価されました。
山下:腕時計全体を眺めると、どこかシャープで整理された印象もあります。
伊東:お、鋭いですね。実は「縦」のラインを強く意識しています。
山下:縦ですか?
伊東:サブダイヤルの配置、中央のストライプ、そしてケースからブレスレットまでのひとつながりで流れる造形など、縦方向の統一感を持たせています。
山下:言われてみると1本の軸が通っているように見えますね。
伊東:多機能な時計だからこそ、造形としての秩序が重要なんです。また、縦のラインは情報を整理しやすくなるだけでなく、アストロンらしい力強さも表現できます。
川村:『Red Dot Design Award』でも「堅牢性と高精度を際立たせる印象的なデザイン」という評価をいただきました。デザインの意図やこだわりを感じ取っていただけたのは嬉しいことですね。


ユーザーを見つめ続けた先にあるもの。
山下:今日のお話を聞いて、4冠受賞は決して偶然ではないと感じました。
川村:ありがとうございます。
伊東:私たち自身は賞を目的にしていたわけではありません。ユーザーにとって快適であること、見やすいこと、そして所有する喜びを感じられること。その積み重ねを追求した結果だと思っています。
山下:振り返ると、各賞は「装着性」「視認性」「日常性」「美しさ」「造形表現」など、異なる視点から実は同じ価値を評価していたように思います。
川村:そうかもしれませんね。しかし根底にあるのは1つです。それは、ユーザーにとってより良い体験を実現すること。そのために技術とデザインを磨き続けることが、私たちデザイナーの使命だと思っています。
山下:私もその考え方を受け継ぎながら、新しいアストロンに挑戦していきたいと思います。本日はありがとうございました。







