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Vol.43 このソーラークロック、ふつうな顔して、ふつうじゃない。 Vol.43 このソーラークロック、ふつうな顔して、ふつうじゃない。

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2017年、学校や学習塾などでの使用に向けて制作された掛時計「教室の時計」がある。そのソーラー発電式モデルとして、2025年に開発した掛時計(SF245W)の制作裏話を、デザイナーの若松美穂が語ります。

壁掛時計の「モヤモヤ」をなんとかしたい。

電池式の壁掛時計って、実際の時間とちょっとズレていたり、気づかないうちに止まっていたりして、なんだかモヤモヤした経験はありませんか?ウオッチとちがって、クロックは共用物になることが多いので、誰が管理するか曖昧なこともその要因になっている気がします。そして、いざ直すとなると、大きかったり高い位置にあったりして意外と大変。そんな「モヤモヤ」のひとつの解決策として、時刻調整も電池交換も必要ない、ソーラー発電式電波掛時計のデザインに挑戦しました。

SF245Wのデザインの出発点は、クロックの不便や不満を解決したいという、人への思いやりだった。
SF245Wのデザインの出発点は、クロックの不便や不満を解決したいという、人への思いやりだった。

電池不要。はじめての完全ソーラークロック。

最も大きな挑戦だったのは、完全にソーラーの力のみで動くクロックにしたことです。これはおそらく、社内で初の試み。ソーラークロックの中には、ソーラーだけでは電力を賄えなかったときのために、補助電池を搭載しているものがほとんどです。しかし、今回はそれすらも改善しようと考えました。ここで課題となるのが、ソーラーの力だけでいかにを動かし続けられるか。このクロックは主にオフィスでの使用を想定していたので、動力源は蛍光灯の明かり頼りになります。そのため、できる限り高性能のソーラーパネルを採用しました。

赤い斜線部が、パネルの埋め込み位置。たった2枚のソーラーパネルの力だけで針が動き続けるというから驚きだ。
赤い斜線部が、パネルの埋め込み位置。たった2枚のソーラーパネルの力だけで針が動き続けるというから驚きだ。

そしてその性能を最大限発揮させるためには、パネルと数字の被りも避けなければなりません。ここで課題になるのが「10」の文字です。ソーラーパネルは文字板の後ろにあるため、いつものルールに従って配置すると、どうしても0の部分がパネルの端にかかってしまいます。そのため、文字の大きさを少し小さくしたり、位置をずらしたりと、見たときに違和感を覚えない程度に、非常に細かな調整を行う必要がありました。

は、あえて付けていません。オフィス利用であれば、正確な秒数まで把握できることよりも、だいたいの時刻をパッと見て把握しやすいことのほうが重要だと考えたからです。秒の動きは時計が止まっていないことの証にもなりますが、この時計に関してはそれがないのがむしろ、「止まらないから大丈夫」という自信の表れにもなっている気がします。

忙しかったり、ゆったりしていたり。働く人それぞれに流れる時間を、このクロックは絶えず正確に刻み続ける。
忙しかったり、ゆったりしていたり。働く人それぞれに流れる時間を、このクロックは絶えず正確に刻み続ける。

新品感より親近感。元からそこに掛かっていたかのように。

見た目の印象で意識したのは、誰もが親しみやすさを感じられることです。それは、「主張が少なく、存在感が控えめ」と言ってもよいもしれません。例えばこの時計をオフィスに導入したときに「あ、新しい時計が掛かっている!」とすぐに気付かれるよりも、「あれ、元から掛かっていたっけ?」と思われるくらいそこに調和するものを目指しました。ほぼ毎日目にするものであると考えたら、癖のない、いい意味で「ふつう」の顔つきをしている方が役割としてふさわしいのではと思ったのです。

あたりまえにそこにあって、空間に馴染んでいる。「ふつう」とは、無意識に感じる心地よさかもしれない。
あたりまえにそこにあって、空間に馴染んでいる。「ふつう」とは、無意識に感じる心地よさかもしれない。

そうなると、ソーラーパネルも見えないようにしたいと思い、文字板に使用するシートは光を通しつつも遠くからは透けて見えない特殊なものを探しました。文字は、癖のない、いい意味で「ふつう」のユニバーサルフォントを採用。枠の色については、真っ白だと新品らしさが出てしまい、空間によっては浮いた存在になりかねません。そこで、ベースにグレーを敷くことで自然なホワイトになるようなこだわりも入れています。また、判読性も親しみやすさだと捉え、と目盛りの高さを合わせることで、どの角度から見ても正しく時間が読み取れる工夫も施しています。

高さの揃った針と目盛りは、急角度からでも正確に時間を読み取れる。「モヤモヤ」の配慮は、こんなところにも表れている。
高さの揃った針と目盛りは、急角度からでも正確に時間を読み取れる。「モヤモヤ」の配慮は、こんなところにも表れている。

ふつうを作るには、ふつうじゃいけない。

ありがたいことに、このクロックは2025年度のグッドデザイン賞をいただきました。クロックの「モヤモヤ」を解決したいという目標は、電池いらずのソーラークロックとして形にすることができました。それが結果的に「電池廃棄が出ない、しかも長く使える」という環境に配慮した製品となり、社会課題の解決にも寄与できたところが評価されたのではないかと思っています。

実は試行錯誤の途中、上司の意見も大きなヒントになりました。私のデザインへの意識が「元からそこにあったかのような親しみやすさ」に向かいすぎていた時、「枠の内側を黒く縁取ってみたら?」という思ってもみないアドバイスが。やってみると、それまできれいにまとまりすぎていたものが、途端に文字板へ視点が定まるようになって、しかもより自然な印象になったのです。

そういった出来事も含め、今回の経験から、時計に限らず「ふつう」に見えるものにはデザイナーや技術者の「ふつうじゃない」工夫や努力が隠れているのだと思い至るようになりました。ふつうって、すごい。その感覚を胸に、これからもクロックデザインに向き合っていきたいです。

若松 美穂 | Miho Wakamatsu 2022年、セイコータイムクリエーション入社。現在はセイコーウオッチにて、国内・海外向けのクロックデザインを担当。周りからは「とても冷静で落ち着いている」とよく言われるが、自身はそれが「ふつう」だと思っている。
若松 美穂 | Miho Wakamatsu 2022年、セイコータイムクリエーション入社。現在はセイコーウオッチにて、国内・海外向けのクロックデザインを担当。周りからは「とても冷静で落ち着いている」とよく言われるが、自身はそれが「ふつう」だと思っている。
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