壁掛時計の「モヤモヤ」をなんとかしたい。
電池式の壁掛時計って、実際の時間とちょっとズレていたり、気づかないうちに止まっていたりして、なんだかモヤモヤした経験はありませんか?ウオッチとちがって、クロックは共用物になることが多いので、誰が管理するか曖昧なこともその要因になっている気がします。そして、いざ直すとなると、大きかったり高い位置にあったりして意外と大変。そんな「モヤモヤ」のひとつの解決策として、時刻調整も電池交換も必要ない、ソーラー発電式電波掛時計のデザインに挑戦しました。


電池不要。はじめての完全ソーラークロック。
最も大きな挑戦だったのは、完全にソーラーの力のみで動くクロックにしたことです。これはおそらく、社内で初の試み。ソーラークロックの中には、ソーラーだけでは電力を賄えなかったときのために、補助電池を搭載しているものがほとんどです。しかし、今回はそれすらも改善しようと考えました。ここで課題となるのが、ソーラーの力だけでいかに針を動かし続けられるか。このクロックは主にオフィスでの使用を想定していたので、動力源は蛍光灯の明かり頼りになります。そのため、できる限り高性能のソーラーパネルを採用しました。


そしてその性能を最大限発揮させるためには、パネルと数字の被りも避けなければなりません。ここで課題になるのが「10」の文字です。ソーラーパネルは文字板の後ろにあるため、いつものルールに従って配置すると、どうしても0の部分がパネルの端にかかってしまいます。そのため、文字の大きさを少し小さくしたり、位置をずらしたりと、見たときに違和感を覚えない程度に、非常に細かな調整を行う必要がありました。
秒針は、あえて付けていません。オフィス利用であれば、正確な秒数まで把握できることよりも、だいたいの時刻をパッと見て把握しやすいことのほうが重要だと考えたからです。秒針の動きは時計が止まっていないことの証にもなりますが、この時計に関してはそれがないのがむしろ、「止まらないから大丈夫」という自信の表れにもなっている気がします。


新品感より親近感。元からそこに掛かっていたかのように。
見た目の印象で意識したのは、誰もが親しみやすさを感じられることです。それは、「主張が少なく、存在感が控えめ」と言ってもよいもしれません。例えばこの時計をオフィスに導入したときに「あ、新しい時計が掛かっている!」とすぐに気付かれるよりも、「あれ、元から掛かっていたっけ?」と思われるくらいそこに調和するものを目指しました。ほぼ毎日目にするものであると考えたら、癖のない、いい意味で「ふつう」の顔つきをしている方が役割としてふさわしいのではと思ったのです。


そうなると、ソーラーパネルも見えないようにしたいと思い、文字板に使用するシートは光を通しつつも遠くからは透けて見えない特殊なものを探しました。文字は、癖のない、いい意味で「ふつう」のユニバーサルフォントを採用。枠の色については、真っ白だと新品らしさが出てしまい、空間によっては浮いた存在になりかねません。そこで、ベースにグレーを敷くことで自然なホワイトになるようなこだわりも入れています。また、判読性も親しみやすさだと捉え、針と目盛りの高さを合わせることで、どの角度から見ても正しく時間が読み取れる工夫も施しています。


ふつうを作るには、ふつうじゃいけない。
ありがたいことに、このクロックは2025年度のグッドデザイン賞をいただきました。クロックの「モヤモヤ」を解決したいという目標は、電池いらずのソーラークロックとして形にすることができました。それが結果的に「電池廃棄が出ない、しかも長く使える」という環境に配慮した製品となり、社会課題の解決にも寄与できたところが評価されたのではないかと思っています。
実は試行錯誤の途中、上司の意見も大きなヒントになりました。私のデザインへの意識が「元からそこにあったかのような親しみやすさ」に向かいすぎていた時、「枠の内側を黒く縁取ってみたら?」という思ってもみないアドバイスが。やってみると、それまできれいにまとまりすぎていたものが、途端に文字板へ視点が定まるようになって、しかもより自然な印象になったのです。
そういった出来事も含め、今回の経験から、時計に限らず「ふつう」に見えるものにはデザイナーや技術者の「ふつうじゃない」工夫や努力が隠れているのだと思い至るようになりました。ふつうって、すごい。その感覚を胸に、これからもクロックデザインに向き合っていきたいです。











