夢の「からくり時計」を、日常へ。
1980年代半ばの好景気を背景に、大型商業施設や公共空間には単なる時刻表示を超えた大型からくり時計が登場した。有楽町マリオンや横浜そごうでは、毎正時になると音楽とともに人形が動き出し、その演出が人々を惹きつけ、時間は体験へと変わっていった。この高揚感をより身近に届けたいという想いから生まれたのが、「ファンタジア」である。設備時計の演出表現を家庭用の壁掛けサイズに再構成し、電池駆動で実現するという挑戦は、単なる小型化ではなかった。空間との調和や視線の誘導まで含めて再設計し、人の心を動かす演出を、日常の暮らしの中へ届ける試みだった。
家庭用からくり時計の原点となったデザイン
1988年に登場した初代ファンタジアRE501Bは、家庭用からくり時計という新たなジャンルの基礎(土台)を築いたモデルである。音楽に合わせて人形が動く世界観への憧れを背景に、12枚の扉から楽器を持った人形が現れる演出を実現し、見る者に驚きと楽しさをもたらした。一方で設計面では「必ず動き、必ず止まる」ことを徹底し、複雑な機構を支える構造設計に加え、大型筐体を実現させるため新たな金型技術の開拓や造形表現にも挑戦。楽しさと信頼性の両立を追求し、家庭における時間体験の新たな価値を提示した。
小型・軽量に進化したからくり時計
翌1989年に発売されたRE505Bは、初代の思想を継承しつつ実用性を高めたモデルである。部品の小型化と軽量化により、設置のしやすさと扱いやすさが大きく向上した。インテリア性にも配慮し、絵画を飾るような感覚で使えるよう、あえて外周の扉絵と文字盤を分けた構成を採用。文字盤には視認性の高い12か所のアラビア数字を配した。外周の扉には町のにぎわいをイメージした13種類のイラストを絵本のような柔らかなタッチで描き、時計全体にストーリー性を与えている。
実用性と楽しさを両立した進化形
1998年発表のRE540Mの最大の進化は、任意の時刻に演出を起動できるプログラム機能である。学校や児童施設などでは、チャイムに代わる時報機能として活用された。子どもたちにとってより楽しく賑やかな体験となるよう、扉の開閉や人形の動き、LEDの光の演出にも工夫が施されている。デザインは「森のシンフォニー」をテーマに、キャラクターによる演奏会をイメージし、物語性を付加した。さらにガラスには飛散防止フィルムを施し、音楽の選曲にあたっては保育士へのヒアリングを行うなど、子どもが多く集まる場所でも安全かつ楽しく使えるよう工夫が重ねられている。
設備時計の感動を家庭へ、そして時間そのものを演出するメディアへ。ファンタジアは常に「体験としての時間」を追求してきた。そこには、省電力や操作性、高い信頼性といった技術基盤と、それを人の感情へと翻訳するデザインの力がある。空間に高揚感や楽しさ、安らぎをどのように生み出し、届けるか。その思想は、現在のセイコーのからくり時計にも脈々と受け継がれている。



